35階から落ちてきた恋

それから深夜になってやっと、私たちはホテルに移動することができた。
今後、警察立会いの下、不審者が出入りしていないかマンション内の監視カメラ映像がチェックされるらしい。

あの部屋では眠れる気がしない。また誰かが入ってくるかもしれない。

進藤さんのギターを含めた貴重品は全て無事だった。

部屋からなくなっているものはないと思われたのだけど、一つだけ明らかになくなっているものがあった。

無くなったもの

それは、進藤さんと私が歌っている映像が入っているUSBだ。



それは先月のこと、
ヒロトさんにお願いされて仕方なく撮影したものだった。

「頼むよー、お願い、果菜ちゃん。琴美の誕生日なんだよ。何が欲しいって聞いたら果菜ちゃんの歌が聴きたいって言うんだ。だからさ、歌ってよー。ちょっと動画撮らせてもらうだけでいいからさ」

日曜の午後、まったりとリビングで寛いでいたらヒロトさんがやって来て私に頭を下げた。

「ええ?何で?どうして私に?」

「頼むよー。琴美が切迫流産で入院中なの知ってるでしょ。絶対安静なの。でもまさか二人に病室で歌ってもらうわけにいかないじゃないか」

「入院中なのはもちろん知ってますよ。先週私もお見舞いに行ったじゃないですか」

「だからだよ。果菜ちゃんの動画を撮らせてよ」
< 153 / 198 >

この作品をシェア

pagetop