35階から落ちてきた恋
「何が、だからだよ・・・ですか。私は歌いませんよ。歌ならユウキさんがいるじゃないですか。それか、他にプロの方々が。事務所の後輩とかお知り合いのミュージシャンの方とかいっぱいでしょ」
「それじゃダメなんだよ。琴美は貴斗と果菜ちゃんの歌が聴きたいんだって。いつも二人で歌ってるんだろ。それをちょっと聞かせてくれればいいんだからさ。頼むよー。だいたいさ、いつもタカトが自慢するから琴美が聴きたいって言いだしたんだよ。なぁ頼むよ、果菜ちゃーん」
「ええ?どこの世界にプロに歌声を聴かせたがるナースがいるんですか、絶対に嫌です。琴美さんのことは大好きですけど、それは断固お断りします」
私はプイっと顔をそむけた。
そむけた顔の先にいた進藤さんと目が合った。
彼は笑顔で何も言わない。
「進藤さんからもしっかり断ってください」
私の膨らんだ頬をぷにっとつまむと
「そう怒るなよ。ヒロトも必死みたいだし」
と笑った。
「でも、これただの誕生日プレゼントじゃないんですよ、進藤さん知ってます?」
そう口をとがらせて進藤さんに言うと「どういうこと?」と進藤さんは眉をひそめた。
「ヒロトさんのアレのせいで琴美さんが怒ってこんな無理難題を言い出したに決まってます」
「アレって?」
「うー」
進藤さんとヒロトさんは同時に声を出した。
「果菜ちゃんさぁー、もしかして琴美からなんか聞いてるの?」
ヒロトさんが私を窺うように上目遣いになるから、ここぞとばかりに深く頷いてやった。