35階から落ちてきた恋
これ以上言ってはいけないと思った。でも、次の言葉で私はまた息をのんだ。

「まあ、果菜は女優の卵でもモデルでもないから俺とのツーショットが公開されてもメリットはないな」

女優
モデル

それは過去の新藤さんの女性関係の話なんだろうか。
進藤さんにそんなつもりはないんだろうけど、どんどん気持ちが沈んでいく。
私は黙り込んだ。

私が進藤さんと一緒にいる以上、不特定多数の人から注目されたりすることは仕方ない。
それは嫌と言うほど理解しているつもりだった。
でも、どうしても踏み込まれたくない一線はある。
それが進藤さんとあの仕事部屋で過ごす大切な時間。
・・・進藤さんと私とでは感じ方が違ったのだろうか。

そんなことに今気が付いてショックを受ける。
私はそう簡単に割り切ることはできない。

「果菜?」
黙り込んだ私の顔を覗き込んでくる。

ダメ。
今、見られたくない。

「あの。気分転換にシャワーを浴びてきますね」

そっと大きな胸から離れて立ち上がり、進藤さんに止められる前にバスルームに向かって駆けだした。

「果菜」

私の背中に向かって彼の声が飛んでくる。

「もう出てしまったことだ。今更どうしようもない」

「わかってます」

痛む心を押し殺して振り向きもせずバスルームに逃げ込んだ。

わかってる。
そんなことわかってる。
一度出てしまったものはもうどうしようもないことなんてわかってる。

私は熱いシャワーを浴びながら、生まれてしまったすれ違う気持ちに戸惑いを感じひとり涙した。










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