35階から落ちてきた恋

「ははっ。噂のハイスペックドクターは新妻にメロメロってこと?」

「そうなの。結婚したら落ち着くのかと思ったら、全然よ。あんなに甘い人だとは思わなかったわ。彼女の話になると豹変するんだから」と思い出して苦笑した。

アツシさんはこうして私の愚痴にも付き合ってくれる。

「で、果菜さんはまだ失恋の痛みから抜け出せないってこと?」

「あー、違う。違うの。もう先生のことは何とも思ってない。そもそも何も始まってない関係だったし。
ただね、彼がいないと思ってた友達はいきなり結婚するって言うし。それなのに私は仕事以外何もないなあって思ってちょっとね。・・・だから、ここに自己肯定しに来たの」

私がニコッとすると、アツシさんもホッとしたように笑った。

「激務でお疲れでしょうから飲みすぎないように」

「はい、大丈夫。大人の女性はそのあたりの自己コントロールも大切ですもんね。2杯目からはアルコール低めのをアツシさんのお任せでお願いするね」

「かしこまりました」と言ってアツシさんはカウンターに戻っていった。


本当にいつになったら私が熱くなるような恋に出会えるんだろうか。

藤川先生を見ていて落ち込むのは失恋のせいじゃない。
そんな相手に出会えない自分の現状に落ち込むのだ。

合コンで出会って結婚した友人だっているけれど、積極的に合コンに参加する気にならない。
外来に来た若い患者さんに声をかけられることもある。
でも、それって『白衣マジック』じゃないかと思ってしまうんだよね。
白衣の天使って言葉があるし、制服に弱い男性もいるでしょ。
白衣を脱いだらがっかりされたってことも・・・よく聞く。

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