35階から落ちてきた恋
35階から落ちてきた恋
清美さんから送られてきた動画を見た日から3日後、九州から帰ってくる進藤さんと『Moderato』で待ち合わせをした。

私は約束の時間からかなり早く行ったのだけど、何と進藤さんの方が先に来ていた。
カウンターに座ってアツシさんと話をしている。
スツールからはみ出す長い脚もフェロモンダダ漏れの憂い顔もいつも通り健在だ。
いつ見ても素敵な大人の男性だ。

「進藤さん」
そっと声をかけると驚いたように振り向いてそれから口角を少しだけ持ち上げて「早かったな」と笑う。

「はい。久しぶりに会えると思って急いじゃいました」

ふふっと笑顔で答えると一瞬、おっ?と驚いたような表情をした後、すぐに穏やかな笑顔を浮かべた。

「アツシさん、こんばんは」
笑顔で頭を下げるとアツシさんも「久しぶり。姫が早く来てくれてよかった」と笑顔を返されてホッとする。
どうやら二人の会話の邪魔をしたわけじゃないみたいだ。

アツシさんまで私のことを『姫』と呼ぶのは納得いかないけど、まあそこは今日は流しておこう。
だって、今私にとって大事なのは進藤さんなのだから。

進藤さんは立ち上がり私の腰に軽く触れ、「行こうか」と2人でいつもの窓側の席に誘導するように歩き出した。
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