35階から落ちてきた恋
「見ちゃいました。それと、一昨日の九州のイベントのも」

「は?それも見たのか。お前、いつもそういうの見ないじゃないか」
驚いたように少しのけぞるように背中をそらす。

「清美さんもうちの美乃梨さんも見た方がいいって言うから」
私はニコッとほほ笑んだ。

「余分なことを」
チッと舌打ちしたかもしれない。私から顔をそむけてしまう。どうやら照れているらしい。
そんな仕草をちょっと可愛いと思ってしまう。

一昨日の九州のイベントの動画を思い出してしまった。
どうやらあれから進藤さんはイベントの度にファンや司会者からずっと私のことをいじられているらしい。
美乃梨さんに「照れるタカトを見てファンのほとんどが果菜さんのことを好意的に受け取っているから大丈夫ですよ」と言われたのだ。

ニコニコしていると
「果菜、余裕だな」
と気を取り直した進藤さんとばっちり目が合った。

余裕?
余裕ってわけじゃないけど?

進藤さんの長くて少し骨ばった指が私の顔に伸びてきて顎に触れる。

「うちの姫は結構強気で意固地で扱いが難しくていつも振り回されるけど・・・誰よりもかわいいな」

フッと目の前に進藤さんの顔が近づいたと思ったら一瞬唇に触れて離れていった。

何をされたのか気が付いて顔から火が出そうになる。

「し、進藤さんっ」
声を殺してで叫んでしまう。
こんな所でキスだなんて誰かに見られたら。怖くて周りを見まわすこともできないで両手を頬に当ててうつむいた。



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