35階から落ちてきた恋
帰宅してすぐに入浴をすませた。

ああ疲れた。動く気力もない。
コンビニのサラダとおにぎりを食べたら寝るしかない。
今日から私の好きなイケメン俳優の西隼人が主演するドラマが始まるけれど、ゆっくり観ている余裕もない。
観ている途中で寝落ちするのが関の山。
毎週録画予約にセットをしたし、もう寝よう。

明日もたくさんの患者さんが待っているはずで、診療する側が倒れている場合じゃないんだから。

生まれて25年、インフルエンザに罹った記憶はないけれど、この先も罹らないという保証はない。
食べて、寝る。これが基本。



・・・・もうっ、誰よ、こんな時間に電話をかけてくる人は。
眠りに落ちてすぐに聞こえる着信音。枕元のスマホをたぐり寄せ、目をこすりつつスマホをタップした。

「・・・もしもし?」

「あー、果菜。ドラマ観てる?何、変な声出して。寝てたの?」

「・・・美和か。寝てましたよ、もちろん」

電話の相手は高校時代の同級生、美和だ。

「まあ、若いのに早寝だわねー」

「忙しいの。わかるでしょ、インフルエンザシーズンなんだからさ。外来は忙しいんだよ」
「あ、そうだった、ごめん、ごめん」

いやいや、全然悪いって思ってないでしょ、美和の悪びれない口調に相変わらずだなと思って苦笑する。
この性格、昔から変わらない。でも、そんな彼女と私の付き合いはかれこれ10年。こっちも慣れたもの。

「で、何の用?」
「たいした用事じゃないんだけど、このドラマの主題歌っていいよねって話と、私に結婚が決まったって報告」

・・・。

今、何て言ったんだ。

「美和」

「何?果菜、寝てたのにいきなりでごめんねー。ドラマも見てないんでしょ?録画してる?主題歌よかったし、ストーリーもなかなかだよ。早く見た方がいいと思う」

「ちょっと、美和。私に言わなくちゃいけないのはそれじゃないよね」
「ああ、冗談。ほんとにごめん」

「なーんだ、冗談か。何だ。やだーもう。ああ、びっくりした。いきなり結婚だなんて冗談きついよ」
「いや、そこは冗談じゃないから」

は?

「私、結婚決まった」

はああああ~?!

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