35階から落ちてきた恋
3杯目を頼もうと振り返ってカウンターのアツシさんを目で探すと、1人の男性客と話をしていた。
接客というより少し雰囲気が違う。
もっと気軽な感じだから、お友達なのかも。
アツシさんが私に気が付いて微笑んで軽く頷く。それを見たアツシさんと話をしていた男性客が振り返って私を見た。
年齢は30代半ばって感じだろう。
薄暗いし、顔の詳細な作りはよくわからないけれど、遠目に見てもイケメンの部類に入るんだろう、すっきりとした顔立ち。濃い色のジャケット、胸元が開き気味のⅤネックシャツにスリムパンツ。
すらりとした体型、長すぎるのか組まれた足が妙にスツールから飛び出しているように見える。
目が合ったのか合ってないのかもわからないほどの一瞬のうちに何だか色気のある人だなと感じた。
でも、その人が私から視線をそらしカウンターのグラスに手を伸ばしたから、私の視線も意識も自分の飲み干したグラスと夜景へと移っていった。
背筋をのばして正面の夜景を見つめる。
ここに通い始めてから半年。少しはこのお店の雰囲気から浮いて見えることがなくなっているだろうか。
ここに居合わせたお客さんから見て、私は大人のきちんとした女に見えているだろうか。