35階から落ちてきた恋
ソファで横になり額にアイシングバッグを乗せている男性がいた。

呼吸は荒くぐったりとしている。

「進藤、お医者さんを連れてきたぞ」
木田川さんが声をかけるけれど、返事はなかった。
相当具合が悪いんだろうか、アイシングバッグで顔を見ることができない。
おそらく若い男性。

「彼はいつからこんな状態なんだ?」

「いや、それがわからないんだ。相当ガマンしていたんじゃないかな。リハーサルは午前中から始まったたけど、思えば朝から顔色が良くなかったんだ」

「そうか。じゃあ水沢さん、始めようか。よろしく」

木下先生に「はい」と返事をするより先に私は「失礼します」と言って男性の胸元を開いていた。

「ちょっとごめんなさいね」と軽く断りを入れて男性のわきの下の汗をタオルで拭き取り体温計を差し込んだ。

先生が「胸の音を聞くよ」と言って聴診器で診察している間にノドの奥を見るための器具とライトを用意する。

「ええっと、木田川、この患者さんの名前は何て言うの」

「進藤、進藤貴斗」

「わかった。進藤さん、僕の声は聞こえてるよね。今からノドの診察をするから口を開けて」

返事はないものの口は開けるから聞こえてはいるらしい。

電子音がして体温計を取り出す。

「38.9℃です」

報告するとすぐにインフルエンザ検査のキットを取り出し開封する。



インフルエンザ検査の結果を待つ間に詳しい症状を聞いていく。

結局、インフルエンザ検査はマイナス。
ノドの腫れがあり腹痛下痢嘔吐なし。
その他に目立った症状もなく、恐らく咽頭炎だろうという判断になった。


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