35階から落ちてきた恋
「・・・うるせーな」
進藤さんは騒いでいる二人をにらんだ。

「あ、生きてるじゃん。よかった」
途端に二人は笑顔になった。

「点滴が終わったらリハに戻る」

「えー、何言ってるの。無理でしょ」
「そうだよ、リハ中ぶっ倒れたくせに」

二人は首からかけたタオルで汗を拭きながら進藤さんに向かい合う。

「そこまで我慢してんじゃねえ」
「今夜はもう帰れよ。無理するなら明日のライブで無理をしろ。明日ギターを弾く体力をつけとけ」

進藤さんは目を細めて黙っていた。

「木田川さん、マネジャーなんだから帰れってタカトにガツンと言ったら?」
ジャージさんが木田川さんに言い、
「タカトは明日中止なんて絶対に納得しないんだから、今できる最善策を立てた方がいいんじゃないの?」
とTシャツさんが言った。

どうやらこの人たちはライブの中心人物。
進藤さんは出演者でギターを演奏する人なんだとわかった。

「先生、明日のステージにどうしても上がりたい。何とかなりませんか?」

進藤さんとジャージさん、Tシャツさん、木田川さんが一斉に私たちを見つめる。室内にいた5人ほどのスタッフも緊張感一杯にこちらを見ている。

「そう言われてもね。こういうのは急に治ったりはしないから。それに無理をして肺炎になることだってあるんだから。医者の立場では無理させたくないけど・・・。でも、君たちの立場を考えたら仕方ないかな。できる限り協力するよ」

木下先生はため息をつき、私を見て「ね?」と言った。

進藤さんはホッとした表情になり、他の人たちはわあっと歓声を上げた。

「・・・先生、『ね?』って何ですか、私に『ね?』って」
騒ぐ周囲に聞こえないように小声で隣にいる木下先生の袖をつかんで聞いた。

「いや、だって俺明日も朝から晩まで外来だし。ここで進藤さんのフォローするのって水沢さんしかいないでしょ」

「は?私ですか?ななななんで私?私、ドクターじゃないし」

「いや、水沢さん立派なナースだから大丈夫。応急処置も完璧だし。何かあったら連絡ちょうだい。すぐに指示出しするし」

いや、いきなり責任重大じゃないか!!

いきなりの展開に動揺してしまう。
でも、必要とされてる以上頑張るしかないのだけれど。
< 28 / 198 >

この作品をシェア

pagetop