35階から落ちてきた恋
プリズンホテル スイートルーム
点滴が終わった進藤さんは少し動けるようになったけれど、そう簡単に解熱するはずがない。
食事もとれない状態で、私は彼を置いて帰宅はできないと判断した。
木田川さんと相談して近くのホテルのスイートルームに入った。
初スイートルーム体験がお仕事だとは。
まあ、一生縁がない可能性もあるんだけど。
というわけで、
私は今、進藤さんと二人きりでスイートルームにいる。
スイートルームのバーコーナーやミニキッチンはかなり役に立つ。
発熱した進藤さんの身体を冷やす氷もあるし、寒がった時に湯たんぽのお湯を沸かすこともできるし、作ろうと思えばお粥も作れる・・・。
ホテルに入る時は木田川さんと男性スタッフが進藤さんを連れて先に部屋に入り、人目を避けて私は後から遅れて入った。
女性と色っぽい密会じゃなくて往診のナースなんだからここまでする?って思ったけど、女性とホテルに入ることより進藤さんが体調を崩してナースに付き添ってもらわなければいけない状態であることをマスコミやファンに知られないようにすることが重要らしいのだ。
その後、私に付き添ってくれたスタッフと木田川さんは私が頼んだ必要なものの買い出しから戻ると「会場に戻ります」とさっさと行ってしまった。
キングベッドに彼を寝かせる。
「進藤さん、水分飲めます?何でもいいですよ」
「・・・ムリ」
楽屋で点滴をした後、少しは動けるようになっていたのにまた熱が上がってきたらしい。顔色が悪くなってきた。
首元に触れると「・・・寒い」と小さく呟いた。
急いで作った湯たんぽを足元とお腹の近くに押し込むと、隣の部屋にあったベッドの掛布団をはがして彼にかけた。
このままの状態だともう1本点滴かな・・・。
熱や脈拍を確認すると、木下先生にラインを送った。
先生が寝てしまう前に指示をもらっておかないと。
すぐに既読になり、私の必要な指示をもらうことができてホッとする。
こんな形の往診も看護も初めてだから。