35階から落ちてきた恋
「・・・果菜、そろそろ起きろ」
肩をゆすられて私ははっと目を覚ました。
「ごめんなさい、すっかり眠ってしまって」
目の前には薄笑いをした進藤さんがいる。打ち合わせは終わったのかな。
「LARGOの動画を見ながら寝てたんだな。そんなに面白くなかったのか?」
私の手には動画が再生されたスマホがしっかりと握られている。
「そ、そんなことないですよ!すごく素敵で驚いたんです。ただ、いつの間にか眠っちゃって・・・。あ!進藤さん、体調は?ご気分でも悪いんですか?」
「いや、今のところ俺は大丈夫だ。起こしたのはそろそろライブ前でこの楽屋にも人の出入りが多くなるからだからだ。果菜の寝顔を他の奴らに見せるわけにいかないだろ」
まさかライブ直前?
「やだ、すみません!」
時計を見て驚いた。意外にしっかり寝入っていたらしい。進藤さんはもう着替えも終わっている。
もうすぐ始まっちゃうと焦る私に進藤さんは笑った。
「大丈夫だ。熱はないし、のどの痛みも落ち着いている。水分も摂った。果菜は昨日からいい仕事をしてくれた。これからは俺の仕事だ。いいか、しっかり見ておけよ」
そう言って私の頭をくしゃくしゃっとした。
進藤さんの爽やか笑顔、初めて見た。
しかも、半袖のステージ衣装から出ている上腕は逞しく、黒のパンツは足の長さを強調している。髪も自然に流していて整った顔がさらに整って見える。
カッコいいのは知ってるけど、今の新藤さん、3倍増し!!
フェロモンダダ漏れの進藤さんだけじゃなく爽やかイケメン進藤さんが進藤さんの中にいたらしい。
私の心臓の鼓動が早くなる。
やだやだ、ダメダメ。仕事しに来てるのにこんなにときめくなんて。
叫びだしそうになるのを抑えていると、若いスタッフさんが進藤さんを呼びに来た。
「タカトさん、お願いします」
「ああ、今行く」
私の頭に置いていた手を離して「果菜、終わった後は頼んだぞ」と言って立ち上がる。
「任せて!」
私が大きく頷くと進藤さんは微笑んで親指を天に向けた。
「行ってくる」
「はい!」
頑張って。歩いていく進藤さんの背中に向かって心の中でお祈りをする。
どうか彼が最後まで全力で最高のパフォーマンスができますように。