35階から落ちてきた恋





静かだった舞台からイントロが流れ始めると、満員のアリーナに大歓声が地鳴りのように響いていく。
どおおん!と爆発音がして白煙と共に幕が上がると、歓声は悲鳴に変わる。

LARGOのアリーナライブが始まった。



私は舞台袖の奥まったスペースにいた。傍らには仕事道具の往診カバン。
両手を胸の前で組んでただ見守る。

幕が上がる前には私も恐ろしいほど緊張していた。
自分は何もできないのに、このSTAFFと書かれたネームのストラップをしているだけで、周りにいるスタッフのびりびりとした空気感が自分にまで伝染していたのだ。

「水沢さん、大丈夫ですよ」

舞台袖で震えていると木田川さんがやってきてくれた。

「どうにも緊張しちゃって」何だか指先が冷える。

「タカトはプレッシャーに強いんです。それに「今日は倒れても果菜がいる」って言ってましたから。絶対にいいパフォーマンスを発揮しますよ。心配はいりません。それより水沢さんはもう少しリラックスしてステージを見てあげて下さい。舞台袖では見にくいと思いますけど」

「リラックスですか。こんな環境はじめてなんで無理そうですけど」

機材に囲まれ足元にはあちこちにコード類が。周りのスタッフの邪魔にならないようにしているのでいっぱいいっぱいだ。

「とにかくステージのタカトをしっかりと見てあげてください。タカトがそう望んでるんですから」

「はい、何かあったらすぐ対応できるように見てます」

「いえ、たぶんタカトが見て欲しいのはそういう意味じゃないと思いますけどね」

その後は観客の歓声と悲鳴で木田川さんの声も聞こえない。私も舞台の進藤さんに釘付けになった。



そこには私の知らない進藤さんがいた。
私が見たことのあるフェロモンダダ漏れでも、さっき見た爽やか進藤さんでもなく・・・鮮やかに輝きを放つ進藤さん。
ライトが当たってるからじゃない。
彼の内側から光がでているよう。

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