35階から落ちてきた恋
「じゃあ、付き合ってもう6年になるってことか?留学の時はどうしてたんだよ。まさか3年間もほったらかしとか?」

木下先生のその問いに一瞬だけ藤川先生の表情が変わった。
そう、本当にほんの一瞬。
少し苦しそうな。
でも、すぐに笑顔になる。

「まあ、そんな感じ・・・とでもいうか」

「ホントにつきあってるのか?それ。大体さ、研修医の頃はともかく最近のお前に彼女がいるなんて聞いたことないし。彼女なんて女除けの嘘なんじゃないの?」

「いやいや、ホントですから」

突っ込む木下先生に藤川先生はいつものペースに戻って笑顔でかわしていく。
診察の時に女性の患者さんから言い寄られてかわしていく時と同じ。
穏やかな笑顔であっさりと断る。

「お前に女の影なんてないじゃないか。研修医の頃からなんていったらかなり長いだろう、どんな子だよ。まだ結婚しないのか?」

「俺にはもったいない位イイ女ですよ。まあ、その辺のことはいいじゃないですか。・・・もう勘弁してくださいよ」

「なんだよ、水臭いな。やっぱり怪しい」

それ以上藤川先生は彼女の話をしなかった。
お酒に酔った木下先生がどんな子なんだとかいくつなんだとかしつこく聞いていたけど、のらりくらりとかわして口を割ることはなかった。

だから、私を含めて女性陣は本当は藤川先生に彼女なんていないんじゃないかと思っていた。

だって、3年間も超遠距離恋愛。やっと帰国したのに盛り上がってないの?
私ならやっと戻ってきた彼と四六時中でもくっついていたいけど。

藤川先生と彼女はお互い自由を満喫しているのか。

彼女はこんなに素敵な男性を放置していて平気なのかな?
いや、普通心配でしょ。
だって、こんなにイケメンだよ。何もしなくても女の方からわさわさ寄って来るよ。
やっぱり、彼女とはうまくいってないんじゃないかな。

私にチャンスがないってこともないかもしれない。
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