35階から落ちてきた恋
「果菜さん、そういえば先月院長の代わりに往診に行った先のヒトってどんなヒトだったんですか~?」
事務スタッフの留美ちゃんが思い出したように絡んできた。

「院長は知り合いのVIPに極秘で頼まれたって言って教えてくれないし。果菜さん1日半も付き切りだったんでしょ?一体どんなヒトだったんですか~?」

「だから、極秘だって木下先生から言われたでしょ?守秘義務があって教えられないのよ」
私は優しく諌める。

「どっち方面かだけでいいですから教えて下さいよ」
「どっち方面って何それ」
「政治系、財閥系、大手企業系、芸能界系とか」
「いやいや、ダメでしょ」
「えー、いいじゃないですか。じゃあ、何歳くらいとか」
うっ、しつこいぞ、留美ちゃん。

「ダメだってば」
「病状も名前も聞いてません。ちょっとくらいいいじゃないですか」
恐ろしいほどしつこく食い下がる。特別な人だって何か感じてるのかもしれない。

見かねた事務スタッフの美乃梨さんが「そういえば私、果菜さんがいないときに藤川先生の奥さんを見ちゃいました。診療の終わりに合わせて藤川先生を車でお迎えに来てたらしくて」

途端に興味が藤川先生の奥さんにスイッチする。

「えー、どんな人?」
「果菜さんが言ってたみたいにやっぱり美人?」
「そうなんですよ、すごーくきれいで」
「可愛い系じゃないんだー」


ナイス、美乃梨さん。
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