35階から落ちてきた恋

「か、果菜さん!果菜さんにお客様が!」
受付にいたはずの留美ちゃんが検査室に飛び込んできた。

ん?「どなた?」

それはあのラジオ番組から10日ほどたった日のこと。
診療受付が終了して、最後の患者さんの検査の片づけをしている時だった。

「そんな落ち着いてる場合じゃないです!さ、サングラスに背が高くて足が長くて」

「いや、留美ちゃん。特徴じゃなくてさ」
慌てているせいで訳がわからない。

「いいからもう、受付に行ってくださいよ!」

留美ちゃんに背中を押されて受付のある待合室に行くと会計を待っている患者さんたちの様子がおかしい。
視線がみんな受付のあたりに集中している。
何だっていうの。

私も受付に視線を向けて驚いた。

進藤さん!

進藤さんがいた。
ダークブルーのロングコートにセーターとブラックジーンズ姿。
留美ちゃんが言っていたサングラスはしていない。

驚いて立ち止まった私に気が付いて「おい、果菜。仕事は何時に終わるんだ」とフツーに話しかけてきた。

「ななななんで、なんでここにいるんですか!」

「何でって、果菜がアツシのところになかなか来ないからだろうが」

何言ってんだ、お前はとごく普通に返された。

ハッと気が付いて周りを窺うと周囲の視線を独り占めしている。

「ちょ、ちょっとこっちに来てください」
私が留美ちゃんにされたように私が進藤さんの背中をぐいぐいと押して今は患者さんのいない中待合の廊下に連れて行く。


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