35階から落ちてきた恋
高層マンション 2505室
木下先生の援護でクリニックを飛び出すように出てきて駐車場に向かうと、進藤さんが車にもたれて外で待っていた。

「車の中で待っていればよかったじゃありませんか。こんなに寒いのに」
駆け寄って進藤さんの腕に触れた。

コートの表面は冷たくなっている。
「冷えてしまって。また体調を崩したら大変です。早く温かい所に行かなくちゃ」

そんな私に進藤さんの表情が緩んだ。
「冬の空気感に触れたり、好きな女が出てくるのを待ってたり、そういう事全てが自分の心の栄養になり創作につながるんだ。だから我慢して外にいたんじゃないよ」
私の頬をそっと撫でて
「でも、このままだと果菜の迷惑になりそうだからそろそろ行くか」
そう言って助手席のドアを開けて私に乗るように促した。

今、好きな女が出てくるのを待ってたって言った?
そう聞こえたのは気のせい?
それともまたからかわれている?

「果菜?大丈夫か、働きすぎておかしくなったか?」
「おかしいって、ちょっと失礼ですよ、進藤さん」
黙り込んでいた私にからかいの言葉をかけてくる。運転席でくくくっと笑い車を発進させた。

「どこに行くんですか」
「俺んち」

「えええ?」
それって、さらっと言いましたけど、俺んちってご自宅ってことですよね?

「いやなのか?」
「だって、それってマズいですよね」
「何が」
何がって。

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