35階から落ちてきた恋
進藤さんは微かに笑った。
そして、なぜか顎を指先でこすり少し逡巡するような仕草をしたあと、ギターを手にした。

ピックを持ち演奏が始まる。


とても明るく素敵な曲でわくわくと胸が躍りだす。
そして、初めて聞く進藤さんの歌声に胸を打ち抜かれてしまった。
何て魅力的な伸びのあるテノールだろう。

ボーカルのユウキさんもとてもいい声をしているのがLARGOの魅力の一つであるけれど、進藤さんの声は何というかそれとは違う。私の心をわしづかみにしてしまいどうにも離さない。



曲が終わった後もどきどきとして声が出せない。

「どうだった?」


気が付けば涙が流れていたらしい。

「どうした、泣けるような曲じゃなかったはずだけど」
進藤さんは立ち上がって私の隣に座る。

「ええ、わかってます。泣くつもりはなかったんですけど、気が付いたら出て来てて」
涙をぬぐう。

「進藤さんの声すごく素敵です。それに、今の曲もすごくよかったです。これ、あのライブの時のことが元になっているんですよね?」

進藤さんは何も言わず頷いた。
スタッフに向けた応援ソングに聞こえた。

「だから感動して。進藤さんはあんなに体調が悪かったのに周りのことをしっかり見ていたんだなって」

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