35階から落ちてきた恋
そば処 鈴庵

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行きたくない。
こんなに仕事に行きたくないと思ったのは初めて。

うー、行きたくない。
絶対に聞かれるよね。聞かれないはずがない。
昨日、LARGOの進藤貴斗がクリニックに私を訪ねて来てしまったんだから。

うーん、聞かれたら何て言ったらいいんだ。
うーん、うーん。

全く、進藤さんも面倒くさい事をしてくれたものだ。

いつもよりノロノロと支度をし、重い足を引きずるようにして出勤する。
更衣室のドアを開けると、留美ちゃんを先頭にスタッフが仁王立ちで待ち構えていた。
いつもギリギリで出勤してくる知世ちゃんまでいるし。

はあっ。
ガックリと肩を落とす。

「おはようございます、果菜さん。早速ですけど、全部吐いていただきましょうか」

目が笑っていない笑顔の留美ちゃんがそう言うと、後ろにいる知世ちゃんがきらきらっとした瞳で「タカトとずいぶんと親しそうでしたけど」と両手を胸の前で合わせておねだりをするような仕草をした。

他のスタッフも似たり寄ったり。
今さらあれはタカトのそっくりさんですなんて言い訳が通用するとも思えない。
この子達、昨日のアレがタカトだという前提で話してるし・・・・。



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