35階から落ちてきた恋

「で、今日はどうしたんですか?」

「果菜の顔が見たくなった」
開いていた本にしおりを挟むことなくパタンと閉じて私に笑いかける。

「…進藤さん、冗談ももう少し考えていただかないと。私が本気にしたらどうするんですか」
進藤さんから視線をそらし、はぁっと大げさにため息をついて、グラスの冷えたお水をごくごくっと飲んだ。

「本気だよ」

正面の席から聞こえる声にグラスを持つ手が止まる。

えっ?

「この間会った時にも言っただろ。会いたくなったから会いに来た。それだけ」

それってどういう意味に取ったらいいんだろう。
目の前にいる進藤さんは微笑んでいるけど、ふざけているようには見えない。

「果菜、時間あるだろ?遅くならないように帰すからちょっと付き合えよ」

「付き合うって、どこに?」
動揺を隠して返事をする。

「映画」

「映画?何の?」

「西隼人が主演のアクション映画。俺たちが主題歌を演奏してるやつ」

「あ、それ今朝も情報番組で宣伝してるのを見ましたよ。主演の隼人もLARGOのファンなんですってね」
ポンっと両手を合わせた。

「そうらしいな。今回のことで一緒に飲んだ時にそんなことを言ってたな。リップサービスかと思ったらそうでもない風だったよ」

「えー、いいなあ。西隼人と飲んだんですか?うらやましいです」

西隼人は今は30代後半くらいのイケメン俳優。20代後半から数々の映画賞を総なめにし、顔だけでなく実力派。
シリアスなものからアクションまでこなす超有名俳優。
私も熱狂的ファンじゃないけど、ファンではある。



< 85 / 198 >

この作品をシェア

pagetop