35階から落ちてきた恋
「先に軽く食事をするか、果菜は腹が減ってるだろ?」

「何だか私っていつもご飯の心配されてるみたい。でも、確かに減ってます」

「仕事してきたんだから当然だろ。さて、何が食べたい?」

「映画までの時間もあまりないし、私はラーメンが食べたいんですけど、進藤さんはどうですか?」

「は?ラーメンでいいの?もっと高いものねだってもいいんだぞ」

「ううん。時間が気になって落ち着かないし。あ、でも、他に食べたいものがあるのならそれでもいいですよ。私、好き嫌いないですし」

「俺もラーメンでいいけど。果菜ってホントにフツーだな」
くくくっと笑う。

「フツーって何です?でもそりゃ、普通でしょ。私なんて普通のその辺にいる女ですよ。だから芸能人とこうして並んで歩いているなんて非日常すぎてドキドキして本当は倒れそうなんですけど」

並んで歩いて近所のラーメン屋に向かう。

「それは、まあ仕方ないってことで諦めてくれ。堂々としていたら案外ばれないもんだよ。たとえバレてもプライベートだと思うと向こうも声をかけて来ないから」

「そんなものでしょうか?」

「一緒にいればわかるって」

自信たっぷりの進藤さんにホントかなーと半信半疑でいたのだけれど、ラーメンを食べ、映画を見終わって帰宅するときには進藤さんが言ったことが本当だったと思った。

ちらちらとした視線を感じることはあったし、興味深くこちらを見てくる人もいたけれど、声をかけてくる人はいなかった。明らかに見て見ぬふりをしてくれている人もいた。
もちろん映画館ではこちらも目立たないようにいろいろと気をつけたりしていたんだけど。

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