35階から落ちてきた恋
「し、進藤さん。ちょっと近すぎてドキドキします」
タクシーの後部座席、身体が当たるほど近くに座っているのに更に頭まで撫でられては心臓が爆発しそうだ。

「何を今さら。一緒に二晩も寝た仲じゃないか」

「そんな、何を言ってるんですか。あれはそういうんじゃなかったですよね」

「そういうってどういう?」
うっと、言葉に詰まった私を見て進藤さんがニヤニヤとする。

「まあいい。果菜、俺の誘いは断るなよ。また連絡するから」
「何をそんな勝手なこと言ってるんですか」
ぶつぶつと文句を言う私に「また新曲を1番に聞かせてやるから」と抜群の誘い文句を言った。

「本当ですか?絶対ですよ。嘘ついたらもう一緒に出掛けないし、看病もしませんからね」

ははっと大きく笑って「了解。嘘はつかないよ。果菜もだぞ」と言っていきなり私の顎を軽くつかんで持ち上げ左頬に軽いキスをした。

んきゃっ

恥ずかしさで顔が熱い。きっと真っ赤だ。
車内が暗くて良かった。

「ま、このくらい許せよ」
よしよしとなだめるようにわたしの頭を撫でてごまかす。

いくら頬へのキスが初めてじゃないとはいえ、慣れるわけでも、軽く許せるほどの仲でもない。

まあ確かに、今日の映画代も食事代も全て進藤さん持ちだから(私は払わせてもらえなかった)お礼として頬にキスの一つや二つは安いといえるし、この世の中にはあのLARGOのタカトにキスしてもらえるのなら大金を払ってでもして欲しいって人が沢山いるだろう。

顔を赤くしたまますぐにタクシーが私のアパート前について私は車を降りることになった。

「進藤さん、ごちそうさまでした」ぺこりと頭を下げると、彼は「おう、また明日な」と黒い笑いを残して去って行った。

今、また明日って言ったよね。
まさか本気じゃないと思うけど。私の心臓、爆発してしまいそう。
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