35階から落ちてきた恋
翌日、本当にまた進藤さんはあの喫茶店にいた。

お昼休みに呼び出しのメールが来て、仕事を終えてダッシュでお店に入ると、昨日よりは奥まった席でコーヒーを飲みながら本を読んでいる。
目立ちにくい席なのはお店側の配慮なのかもしれない。

「進藤さん」
慌てて来たから息が乱れている私に
「そんなに会いたかったのか、うれしいな」
と笑顔を見せてくれるから冗談だってわかっていてもドキッとする。

「心臓に悪いですよ」
「昨日別れる前に言っただろ、また明日って」
「確かに聞きましたけど、からかわれたと思ってたから。まさか本気だとは」
「俺にはもう会いたくなかったってこと?」
「そんなこと言ってません」
「じゃ会いたかったんだな」
そう言ってとびきりの笑顔を見せてくれたからこっちはたまらない。
きゃー、もうやめてと叫びたくなるような笑顔に私は顔だけじゃなくて全身が熱くなる。

「ホントに、もうそういうの勘弁して下さい・・」
私の反応に満足したらしく進藤さんは笑い出した。
「ホントに果菜といると退屈しない」

おもちゃにしないで欲しい、こっちは大変なんだからと思うけど、それを言うと余計に面白がるだろうから言わないで我慢する。
「・・・で、今日はどうしたんですか?」

「どうって?何か用事がないとデートしてもらえないのか?」

で、デート?
呆然としていると
「会いたいから会うって言ったろ」
と爽やかに言い放った。



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