はちみつ・lover
彼の手を優しく握る。つらそうな表情が少

しだけ和らいだ気がした。

「じゃ、今日は帰るね。早くケガ治すの

よ」

そう言って出ようとした瞬間、彼が私を呼

び止めた。


「待ってください、葵さん。もし・・・俺

との事がバレたら、結婚式挙げてもいいです

か」


そんな彼の思いがけない一言に足が止ま

る。私は振り返る事もなく返事した。


「・・・いいよ。ウェディングドレス着るの

も、悪くないしね」


私はそれだけを言い残して病室を後にし

た。本当の事を言うと、ウェディングドレス

は着てみたい。きっと一生の内に何度も経

験出来る事じゃないから、彼との結婚式で

着たいと思っていた。


・・・ま、彼のお母さんがそんなの許してく

れないか。


きっと、彼のお母さんがいる限り一生結婚式

なんて挙げられない気がする。私はタメ息

をつきながら病院を出た。右手には彼の持

っていたバッグ・・・あの事故の衝撃を思

い出すと寒気がする。
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