はちみつ・lover
「まあ、せっかくだからゆっくりしてけ」

「ありがと、お父さん」

私の家庭は平和だから、いきなり帰っても怒

られないし彼のお母さんみたいに他人に酷

い言葉を浴びせる事もない。だから私はど

うしても嫌な事があったりするとこうして実

家に帰って来ていた。

「何かあったの、葵。暗い顔しちゃって」

「うん、いろいろとね」

お母さんは人よりも優しくて面倒見がいい

から、私の異変にすぐ気づく。私自身、そ

んなお母さんを誇らしく思っている。

「何だ、彼氏と喧嘩でもしたか」

お父さんがいきなりそんな事を訊いてく

る。飲んだ麦茶を噴き出した。

「まさか図星なのか」

「うっ・・・」

「そうなの?正直に言いなさい、葵」

二人が私の両隣に来て問い詰めてくる。私

は板挟みに耐えられず観念した。


「実は・・・彼と結婚してるんだけ

ど・・・」


そう言った途端、全てを話し終わるよりも

先に二人が「ええ~っ!?」と絶叫してひ

っくり返る。コントのような茶番に呆れて

笑いも出なかった。
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