はちみつ・lover
「・・・私、彼が死んだら・・・もう、生

きていく気力ないよ・・・」

私は、今になってやっと気づいた。彼を本

気で愛している事に。


・・・こんな事にならないと、本当の気持

ちに気づかないなんて、バカだな。私・・・


今まで、どこか彼には一歩距離を置いて接し

てきた。本気で好きなのかどうかが分から

なかったから。

「・・・お願い、まだ死なないで。60、

70、80になっても・・・一緒にいたいよ。

飛鳥・・・お願いだから、生きて。私の為

に・・・置いてかないで」

私は救急車が到着するまで、ずっとそのま

ま彼の手を握っていた。彼が生きる事だけ

を願って。



「どうしよう・・・彼が亡くなったら」

彼が運ばれていった病院の、手術室前のベ

ンチに座り、そんな事を一人呟いていた。

どうしようもない喪失感が深く私の中に浸

透していく。黒い泥の塊みたいなものが、

私の心に重くのし掛かっていた。
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