社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
私の異変に気付き、相良さんも箸を置く。


「和奏?」


不思議そうに疑問形で名前を呼ばれて、私は俯きながら問いかける。


「相良さんは無理して付き合っていますか?相良さんの育ちの良さに対して、私の駄目さが浮き彫りになっていて…。
身の程知らずで本当にごめんなさいっ…。もうこれ以上、一緒に居たら、相良さんが恥ずかしい思いするかもしれないし…。あの、ほら、私は、フレンチのマナーも知りませんし…箸だって…」


ピタッ。


左頬に右手が伸ばされると、骨張った手の感触が頬に伝わる。


「顔上げて?何でそんなに卑屈になってるの?無理してるのは俺じゃなくて、本当は和奏なんじゃないの?」


「…ち、違っ」


無理している訳ではないけれど・・・相良さんに追い付きたいのに追い付けなくて、ヤキモキしているのは確かだ。


「和奏に俺がどう見えてるのか知らないけど…俺は和奏を駄目な人間だなんて思った事はないから」


「…あ、ありがとうございます…」


「何でお礼言うの?」


相良さんが否定してくれたので私は救われた。


素直に嬉しかったので、お礼を言ってしまったら相良さんはクスクスと笑い出して、左頬から右手を離していつもみたいに頭をポンポンしてくれた。


「…無理強いしてるのは俺かもしれない。和奏が嫌じゃなかったら、今度…住んでる家に来てみる?来週末は一人きりだから…」


「……お邪魔します」


"来週末は一人きり"───その言葉にドキッとしたのは、お泊まりデートを想像しただけではなく、家には他の誰かも一緒に住んでいると言う事を想像出来るからだ。


今、根掘り葉掘り聞いても、相良さんの事だから上手くはぐらかすだろうから聞きはせず、我慢する。
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