社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
後藤さんが「またね」と言って手を振り、この場を去った時に先程の演奏者ではないと思われるピアノの音色が聞こえた。


まさか、とは思うけど…!


私はいても立ってもいられない気持ちになり、席を立ち上がりピアノのある場所へと向かう。


陰からこっそりと覗く姿に心を奪われた。


しなやかに動く細長い指からは、軽快な音色が繋がり、華麗さが広がる。


私の姿を見つけた演奏者は、更に速さを上げて私を挑発するかの様に指を弾かせた。


「目が離せないでしょ?これが大貴の演奏。俺も大好きなんだ。なかなか弾いてくれないけどね」


感動して目をうるうるさせている私を見つけた後藤さんは、私に助言をして隣で一緒に聞く。


相良さん、カッコイイ通り越して、何て言うか…物凄く綺麗。


周りのテーブルのお客もうっとりと聴き惚れている様子で、引き終えるとスタンディング・オベーションが沸き起こる。


一礼をし、私と後藤さんに『してやったよ』的な不敵な微笑みを浴びせる。


拍手が鳴り止まず、アンコールに期待が寄せられたが、もう一曲は弾く気はないらしい。


惜しまれつつ、相良さんは私も引き連れながら席に戻った。
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