社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
「ハンカチどうぞ」


相良さんの前髪の隙間から、汗の粒が見えたのでハンカチを取り出して渡す。


演奏中は眼鏡はせず、Yシャツのポケットにしまっていた。


その後もかける様子もなく、無言で受け取ったハンカチで汗を拭く。


ドキドキ…ドキドキ…。


先程の感動が忘れられず、興奮が冷めやらず。


更に仕事中では絶対に見られない相良さんの姿にときめき、ただ、ひたすらに見つめていた。


「相良さん、とっても素敵でした!」


ついつい声を張り上げてしまったが、相良さんは驚く様子はなく、淡々と…
「…胡桃沢さんも弾いて来たら?全国小学生ピアノコンクール優勝者が弾いた方が盛り上がるんじゃないの?」
と言い返してきた。


「な、何で知って…る、んですか!?」


確かに私は全国小学生ピアノコンクールの優勝経験がある。


惰性で習っていたピアノがたまたま上手だったというだけで、だんだんと楽しいと思えなくなり、中学時代には触りもしなくなった。


「俺も、あの場所に居たから。最初で最後のコンクールになったけど…」


そうなんだ、知らなかった。


男の子は何人か居たけれど、相良さんの様に心を揺さぶれる弾き方の男の子は居なかったと思う。
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