社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
「…俺はコンクールに出た訳じゃなくて、オープニングで弾いただけだけどね」


オープニング?


確か、あの日の審査員の息子さんがオープニングでピアノを披露したのは覚えてる。


「繊細で神経質な音を奏でた男の子は相良さんだったんですね。一音、一音が教科書通りの音で個性がなかった。私は今の相良さんの演奏の方が好きですよ。自由さに華やかさがあって、また聞いてみたいです」


「……誰も評価を述べろとは言ってないけど!」


「は!?す、すみません、私うっかりして…」


「…面白い、胡桃沢さんって…」


余計な事を言ってしまい、慌てて口を手で覆い隠した私を見て、クスクスと笑う相良さん。


こんなに笑っているのを初めて見た。


普段は無表情でクールなイメージなんだけれど、眼鏡をかけずに笑っている姿は私と同年代の男の子らしく見える。


そう言えば、審査員の息子さんと言うことは、この人、もしかして…!


「も、もしかして、相良真一さんの息子さんですか?」


「…そうだけど。やっと気付いたんだ?」


現在はアメリカに在住、世界的ピアニストの相良 真一(さがら しんいち)さんの息子さんだったとは…。


確か相良さんの奥様はフルート奏者だったと記憶の片隅にある。
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