社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
腕を解放されて、ひんやりとした車内の助手席に座ってシートベルトを締めた。


「…眼鏡外したままでいいんですか?見えるの?」


ポケットから眼鏡を取り出して、サイドに置いたので気になって声をかけた。


バックしようとギアに手をかけていた相良さんだったけれど、その手は私の右肩に置かれ、少し身を乗り出してから、右手で座席を少しだけ倒した。


暗い車内の中、右手で頬に触れられ、顎を上に向けられる。


ドキドキしながら自然に目を閉じた私だったけれど、唇は重ならず空振りに終わる。


「…胡桃沢さんって、俺の何が好きなの?"相良さん"みたいに冷酷な方が好きなの?」


間近で見下ろされていて恥ずかしいので目線を外す。


何故、眼鏡一つで追い詰められているのか…。


「…そーゆーんじゃないんですけど…。一目惚れです」


「…あ、そう…」


少し左横を向いていた私の顔を正面に向けて、唇を重ねる。


緊張して口を紡いだままだったので、鼻を摘まれ、無理矢理に口を開かせられ、舌が滑り込んできた。


車内に響く、水の滴るような音。


やっと解放され上を見上げた時、呼吸が乱れた相良さんはとても艶やかに見えた。


心臓が破裂するかと思う位に胸が高鳴り、落ち着かない様子の私に投げかけられた言葉。


「胡桃沢さんの好きな"相良さん"は優しくしてあげられないから、覚悟して下さい」
…と。
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