社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
運転する相良さんの姿をまともに見れず、下唇を噛んでバッグを握り締める、こうする事でしか高鳴る胸を抑えつけられない。


国民的人気バンドの恋の歌が私達二人の間に流れて、心の中で歌う。


この歌の様にハッピーエンドになる事を期待してしまう。


「胡桃沢さんは以前から受付の仕事をなさっているとか…」


「は、はいっ…!短大卒業してからはずっと受付の仕事をしています。派遣、ですけど…」


短大在学中に就職先が決まらず、駆け込む様に派遣の受付嬢に応募して採用された。


在学中に取得した保育士の資格も保育園等に就職が出来ないなら何の意味もなく、就職が決まらなければ東北の実家に連れ戻されるので、派遣でも良いから働く必要があった。


「そうですか…」


相良さんはたった一言そう言うと黙り込んでしまった。


先程の流れはどこに?


優秀な人材の相良さんには、私の様なダメ元で受けて、たまたま採用された人間には幻滅したのだろうか?


沈黙が続き、私はまた心の中で歌を歌う。


今、流れている曲は失恋しても明るく立ち振る舞う恋の歌で、これから相良さんに振られるだろう私にピッタリな歌だった───……
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