Lingerie
私からすれば今まで全く意識もしていなかった相手。
しかも社内で仕事は出来ても『最低』だとレッテルを貼りまくられている九条くんだ。
それに先に入浴を済ませた九条くんだって濡れた犬の如く無造作で、いつも以上に髪の鬱陶しさが目立っていたじゃない。
結論、私が特別気合を入れる必要はない。
そんな言い聞かすような言葉を頭に鏡の中の自分を宥めていたまさに最中。
ガラリと遠慮もなく開かれた脱衣所の扉に「はっ?」と呆け、その扉を開けたらしい人物には「はっ!?」と驚愕の声を上げてしまった。
この際タオル一枚である自分の無防備に対する羞恥は投げ捨てよう。
とにかくね、本当にとにかく……声を大にして言いたい!
「誰?」
「……風呂で転んで頭打って記憶障害でも起こしました?つい数時間前に恋人になった九条爽ですけど?」
何を言っているんだ?と本気の怪訝で言葉を返されているのはよく分かる。
でも私も至って真面目に「誰」だと問いかけ、答えを得た今もそれに『嘘だ』と否定を唱えたい程動揺に満ちているのだ。
そんな私などお構いなし?
「すみません。我慢の限界なので触りに来ました」
言うや否や?
次の瞬間には私の体重などまるで感じておらず薄絹を持ちあげるかの如く抱え上げてくる姿。
未だ整理のついていない頭で、より突きつけられた事実を間近で捉えてまた困惑。
だって…え?
「こんなイケメンだとか聞いてない!詐欺っ!」
ようやく捉えた事実にそんな言葉を吐きだせたのは自分の身体が馴染みきったベッドの上に降ろされたタイミングだった。