Lingerie
一緒に暮らしてなんて言わなきゃよかった。
言わなければ知らずに済んだ事ばかりだ。
彼は朝に弱い。
目覚めれば必ずあどけなく綺麗な彼の寝顔を彼の腕の中で一番に目に映す事になる。
名残惜しいと感じながらも心地の良い腕から抜けて、朝食の準備に意識を注いでいれば、不意に背後から絡んでくる腕の力と背中に広がる寝起きの体温と。
遅れて耳元で響く『おはよう』の低いリズム。
それに『おはよう』と返せばフッと笑ったような息遣いが耳元を掠めてこちらの動悸を煽る。
彼は顔に似合わず甘党で、コーヒーはブラックに砂糖が2匙。
「あ、ミモリさんのプリン、」
「うん、好きだって言ってたからまた作ってみた」
子供みたいにプリンが好物。
そして…言葉より早く体が動く人。
今も、チュッと意図的に耳の裏に触れてきた彼の唇。
場所が場所だけにゾクリと感じて肩を竦めれば『嬉しい、ありがとう』と言葉が追って吹き込まれる。
そうしてようやく離れた身体と体温に名残惜しさを抱くのも一瞬、次の瞬間には決して職場では見られない彼の笑みを惜しみなく向けられクシャリと頭を撫でられるのだ。
泣きたくなるほど満たされる。
その次の瞬間から虚しさに色が褪せる。
一瞬の甘さを糧に繋ぎとめている関係はいつか限界が来ると分かっているのに断ち切れずに負荷ばかりが増す。
私が望んだ理想な時間。
でも、理想的すぎて手に余す。
誤算は自分の誤作動した恋心だ。