Lingerie~after story~
かけたくない。
きっと今もあの部屋でデザインを起こしながら私の帰りを待っているんじゃないだろうか?
必ず戻ると信じて疑わず。
私だってそうだ。
必ず戻れると信じて疑わずにあの玄関を後にしたのだ。
『おかえり』と言ってもらえる事を当たり前にあの家を出たのに。
「寧々ちゃん、」
「っ……」
今にも泣きだしたい感情に追い打ちをかける様な姉の無情な声音。
逆らったところで事態は最悪な方向にしか進まないのだ。
望まぬ感情を押し殺すと発信ボタンをタップして携帯を耳に当てる。
出ないでくれるといい。
入浴中だとか、眠ってしまっていていい。
どんな理由でもいいからこの発信が繋がらないでいてくれたら。
そんな願いは儚すぎて、途切れたコール音の代わりに耳に響くのは、
『はい、どうしたの?』
「_________、」
『寧々さん?』
ああ、どうしよう。
声が上手く出てこない。
代わりのない彼の声はいつだって私を安堵させるものだったのに。
今にも泣きだしそうだと堪える様に唇を噛みしめるも、目の前の姉の笑顔の威圧には逆らえる筈もなく、
「九条…くん、」
『寧々さん?大丈夫?何かあった?事故とかに巻き込まれてない?今どこ!?』
「……実家、」
ああ、心配していた声音だ。
きっと今の私の声音でそれが増している頃合いだろう。