Lingerie~after story~
どんなに気丈に振舞ってみても震える声音は変えようがない。
明らかに尋常でない私の異変を九条くんが流すはずもない。
それが十分に分かるからこそ、
「ごめ……九条…くん、」
『寧々さん?本当にどうしたの?何で謝ってるの?』
優しい声音。
ダメだ、このまま聞き続けていたらもっと話を切り出せなくなる。
気が付けば自分の双眸には涙の膜が張っていて、瞬きの一つでもしようものなら零れ落ちてしまいそうだと必死に堪える。
万が一にも涙なんて零してしまえば、それがスイッチであったように口から零れるのは嗚咽だけになってしまいそうで。
私がまだまともに音を発せられる内に…、
「わ、私……かえ、帰れない……」
『えっ?…いや、いいんだよ?天気も天気だし今夜は実家に__』
「九条くんのところに、」
『……………はっ?』
「帰れ…ない」
『寧々…さん?』
「っ………私…………婚約したみたいなの」
『っ……』
「九条くん………ゴメン……」
ゴメン、本当にゴメン…。
なんとか音にした自分の事情。
最初こそ言葉足らずの説明に驚愕と言う反応で切り返していた彼も今は沈黙だ。
お互いに思ってもみない事の展開であったのだ。
少し前に遡れば寄り添う時間が当たり前にあったというのに。
確かにまだ繋がりを示して耳に響く向こうの雑音。
それでも声を発しない彼の心情はどういう状態なのか。