Lingerie~after story~
たかが数日だ。
数日ご無沙汰だったマンションへの来訪には特別浮上する感傷はない。
懐かしいとも感じない建物や敷地を目に映し込みながら、預かったままである合鍵を使って電子ロックのエントランスを抜けていく。
さて、彼女はどんな反応をするだろうか?
さすがにプライベートの時間だ、感情素直に寂しさを滲ませる?
それとも憤り露わに不貞腐れて不満の嵐か。
そんな予想をしながら思わず口元に弧を描く自分は傍からみたら気味が悪かったであろう。
それでも俺しか乗っていないエレベーターの中だ、特別隠すでもなく目的の階まで身を任す。
静かに動きを止めたエレベーターから身を出して、最早記憶された感覚のままに足を進めたのは彼女の部屋の扉だ。
どうしようか。
インターフォンを鳴らす?それとも普通に鍵で入り込む?
どうせ中に入るなら自分で勝手に入るか。
そんな結論は秒単位でくだされ、躊躇いも気まずさもなく開錠すると玄関の中へ。
あっ、さすがに僅かに懐かしい。
そう感じてしまう鼻孔を擽った彼女の部屋の匂い。
ここに身を置いている時は馴染みきってしまっていて忘れかけていたそれに、どこか少し安堵を覚えながら明かりが漏れるリビングの扉へ足を進める。
どうやら帰宅済みであったらしく明かりが煌々とする室内に、ガラス張りのスライドドアを横に引いて中に入り込んだ。
……瞬間に。
「美味しそう」
瞬時に鼻孔を擽った匂いにそんな感想が口から零れ、誘われるように更に入り込めばダイニングテーブルには出来たばかりであろう食事が手つかずで並ぶ。
それも…2人分。
食事は2人分あれど肝心な人の姿は皆無であったリビング空間。
見渡せるそこに視線を一周させてみるも求めていた姿は捉えられず、仕方なしに意味もなく匂いに誘われるままダイニングの真正面に立ってみた。
美味しそう。
あ、コレ美味しいんだよな。
なんだっけ?
初めて食べた時『美味しい』って感動してたらまた作ってくれたんだよな。
そんなあの短いと言える一週間の記憶を回帰させていた最中だ。