Lingerie~after story~
「あ……」
背後から響いたそんな声音に驚くこともなく振り返れば、部屋着に身を包んだ彼女が大きな双眸を瞬かせてこちらを見つめて立っている。
さあ、この驚愕から覚めた時にどんな反応が真っ先か。
かなり冷静な感覚でそんな事を思って見つめていたと思う。
どんな取り乱した反応をされても対応可能だと余裕充分に見つめていた筈なのだ。
泣くか、怒るか。
「おかえり、九条くん」
「………」
「なんだ、思ったより早かった。今日はまともに仕事切り上げてきたんだ」
「はっ?ああ……まあ」
これは……どういった反応?
驚愕の終幕。
次の反応を構えて待って、結果示されたのはいつも通りの彼女の姿と言うのか。
無表情だけども決して拒絶的なそれではない。
普段からそんなに笑顔を見せるタイプじゃないのは一週間でよく理解している。
本当に何事もなくいつも通りに近い彼女。
そして『思ったより早かった』という一言はここ数日の不在に対してではなく、多分今日の仕事のあがりの事を示してだと思う。
さすがにこの変化球はワンバウンドか。
どうしたものかと呆けている間にも彼女はススッと身を動かして、俺の横を通りすぎるとダイニングテーブルの前へ。
そんな姿を視線で追っていた俺に椅子を引きながら意識を向けてくると。
「どうしたの?食べないの?」
「はっ?……ってかこれ俺の分?」
「大丈夫?帰りに階段ですっ転んで記憶障害にでもなった?」
「はっ?」
いや、それはむしろこっちのセリフで…。
いや、それとも本当に俺の方がすっ転んで頭でも打って記憶障害を起こしてるか夢でも見てる最中なのか。
そんな自分への疑いすら浮上しかけた予想外の事態。