Lingerie~after story~
Side 九条
一瞬の出来事。
自分の理解が及ぶ前に全てが慌ただしく過ぎ去ったような。
それでも未だにしっかりと余韻を広げる自分の唇とベッタリ張り付きに来ているマスクの繊維。
確かめる様に指先で触れれば、途端に遅れ気味だった意識が追い付いてひたすらな葛藤に項垂れてしまった。
「………っとに……あの女嫌だ」
ご褒美って……、だから寝てろって……、
っ_____余計に発熱して眠れなくなったつーの!!
本当に晩熟なんだか積極的なんだかわからない。
時間にしてしまえばたった一瞬、ほんの数秒の接触。
啄むこともなく押し重ねられたに過ぎない唇の重なりに扇情差なんてまるでないに等しいのに。
たった一つのアイテム。
マスク越しとか……普通にキスするよりなんかエロイだろ。
直に重ねる口づけよりも変に籠った熱を感じて、薄い布一枚なんて焦れったさ。
彼女からすればマスク越しだからと事に及べたのであろうけれど、普通のキスよりも段階を飛ばしたそれなのだと教えてやるべきなのだろうか。
「……あ~~……もう……俺が高熱の不能で良かったと思えよ」
じゃなきゃ……今頃追いかけて捕まえて抵抗されようと事に及んでいただろうと予測がつく。
だって…この体の熱さは体調不良とかそういうんじゃなく。
「………っ……抱きてぇ」
なんてもどかしい関係であるのか。
キス一つままならない。
自分の意志はスムーズに押し通せないのに、彼女無自覚な押し引きに翻弄される。
段々……枷を纏わせるだけでは満足できなくなっている自分がいる。
欲求不満を誤魔化すのにも限界があるってものだろう。
なのに彼女は都合の悪い時にも無自覚に煽りにくるんだ。
今もまた……。
コンコンと響く躊躇い交じりのノック音、そのまま扉が開かれることなく響く、