記憶の中の君は甘かった。
「おはよう!碧!」


窓際の席に座っている碧に声をかける。


うつ伏せの姿勢で静止している王子様の顔は、今日も嫉妬してしまうほど整っている。


顔のパーツをひとつでいいから交換してほしいほどだ。


そのとき、


「...おはよ、藍。」


長いまつげが揺れて、碧の唇が柔らかく動いた。


...美しい。


私が見とれているあいだに、横から誰かが私のことをつついてきた。


「相変わらずお熱いねぇーお二人さんは!」


花園 美桜 美人でサバサバしていて、


男子女子ともに人気者な、私の中学からの友達だ。


...っていうか


「別にあいさつしただけだし、熱くなんてないもん!」


私がそう言うと、美桜はやれやれというように首を横に振った。


「あのねぇ、藍は気づいてないかもだけど、ガラス王子、ほかの人にあいさつされても、あんなにニコニコ嬉しそうにあいさつなんてしないよ。あんただけだよ、笑いかけられながらあいさつしてもらえてんの。」


「そうなの!?」


案の定、私はまったく気づいていなかった。


こんな当たり前の毎日は、とても楽しかった。


この毎日に終わりが来るのは、一週間後だったなんて、私には想像もつかなかった。
< 3 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop