愛人契約
三宅先輩はそう言って、私の腕を放した。

「分かりました。」

私は一度深く頷いて、表から外に出た。

案の定、車の窓が開く。


「日満理……」

私の名前を呼ぶ、切ない声。

「お願いだ。もう一度だけ、話をさせてくれないか?」

「お話する事は、何もありません。」

私は本田さんに一礼をして、歩き始めた。


「日満理!」

車のドアが開いて、本田さんが私を追いかけて来てくれた。

「待ってくれ、待ってくれ!」

私は足を止めた。

後ろから、息を切らしている音がした。

「本当に、これで終わりなのか?」

私の目から、涙が零れた。


どうして、こんな時に涙が出るんだろう。

これじゃあ、振り返れない。

< 106 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop