愛人契約
本当は、業績なんてアップしていないし、ボーナスなんて出ない。

「泰介がいよいよ危ないって聞いて、思わず部長に『ボーナスを前借りできませんか?』って、昨日の夜聞いちゃった。部長は、私達の家庭の事情を知っているから、何とかするって言ってくれてね。」

「そう……だったのか。」

泰介は安心したのか、肩が下がった。

「ふふふ。しかしよく闇金なんて、知ってたわね。」

「いや、テレビでよく見るから。」

照れながら笑う泰介を、私は抱きしめた。

「これで、命は助かるわ。」

「うん……」

「よかった……本当によかった。」

「姉ちゃん……」

これで、たった一人の家族を失わずに済む。

私の目には、涙が滲んでいた。

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