【バレンタイン特別短編】棚の上の恋
そんなエレナはある日、買い物ついでにと立ち寄ったあまり人の寄り付かない湖で、足をすべらせてしまった。
この頃の西洋にはまだ泳ぐという風習はなく、当然のごとくエレナは溺れてしまう。
静まり返った世界にただエレナのもがく水音が響いている。
ついに力尽き、意志と関係なく体が沈んで………
気が付くと、エレナは誰かに抱えられ岸にたどり着いた。
朦朧とする意識の中で、誰かが話し掛けてくるのが分かる。
あなたは誰?
擦れて声にもならず、ただ息が漏れているだけのような私の囁きに、その人はふっと笑い……
『知らないほうがうまくいくこともある。また明日、今と同じ時間にここで待ってる』
と、理解しがたい言葉を残して去っていった。