血まみれ椿姫
☆☆☆

俺、池畠良真(イケハタ リョウマ)は夏休み最後の日を老人ホームで過ごしていた。


といっても、16歳の俺が入居しているわけではない。


家族と一緒に祖母のお見舞いに来ているのだ。


祖母は3年ほど前から認知症が始まり、この椿ホームに入っている。


この部屋は12畳ほどのスペースにテレビやベッドなどが置かれていて、バストイレも付いている。


椿ホームの中ではそこそこいい部屋なのだそうだ。


俺たちが見舞いに来ると祖母は必ずベッドの端に座り、《椿森》について話し始めた。


「昔この街には椿森と呼ばれている森があってね、森の小道には沢山の椿が植えられていたんだよ。また、行きたいねぇ」


そんな話しを、1時間繰り返す。


ばぁちゃん、残念ながらその森はもうないんだよ。


だって、ここがその椿森だったんだからね。


俺は心の中でそう返事をする。


祖母の言う通り、この街には椿森と呼ばれる森が存在していた。


でもそれは俺が生まれる前までの話しだ。
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