秘密の糸Season1㊦
「…ハアっ…ハアっ…三…田倉」

見上げると、井上さんが息を切らしながら私に傘をさしてくれていた。

井上さん…まさか走って来てくれたの…?


涙で目が滲んで姿がハッキリと見えない。


「…っ井…上さん…」

安心したのか私はまた涙を零した。


「…何があった?」


「…っ私…」


言おうとしたその時、またどんどん涙が溢れ出た。


その時私の姿を見て井上さんが口を開いた。


「…そのままだと風邪ひくだろ?俺ん家来い。
シャワーと乾燥機、貸してやるから」

…井上さんの家に?


「…でも!」

「…お前そのまま家に帰る気か?」

確かに今この姿で帰ったら親になんて言われるか分からない…。

でも…

「……」

黙っていたその時、井上さんが口を開いた。

「…家、帰りたくないんだろ?だから俺に電話したんじゃねーの?」

確かに今は家に帰りたくない。

帰ったらきっと、親には見破られる。

そうなったらきっと、今までうまくやってきた関係も全部悪くなってしまう…。

親には迷惑かけたくない…。

私はコクンと小さく頷いた。

「だったら来い。…別に取って喰ったりなんてしねーから。」

そう言って井上さんは手を引っ張った。

今思えば少し強引だったかもしれない。

でもこの時の私は、誰かに甘えたかったんだ…。

そして私は井上さんについていった。

「ほら、入れよ」

「お邪魔します…」

私は靴を脱ぎ、リビングに入った。

「とりあえず風呂入ってこい、ちょうど入れたばっかだから」

「…すみません私井上さんに迷惑かけて…」

「あんな電話されたら、ほっとく訳には行かねえだろ。」

(井上さん…心配してくれたんだ…)

「ありがとうございます…」

「ほら、とりあえず入って温まって来い。
着替え乾燥機に掛けといてやるから
風呂場の籠に置いといて。
これ、着替えな。
俺ので悪いけど…」

そう言って井上さんは私に着替えを渡してくれた。

「…ありがとうございます、お借りします。」

そして私は着替えを持って浴室に入った。
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