秘密の糸Season1㊦
「あ、ごめんなさい起こしてしまって…」


「あー…いいよ。」


そう言って井上さんはベッドから起き上がり、脱ぎ捨てていた服を着た。


そして洗面所に向かった。



(悪いことしちゃったな…。)



私はぎゅっと布団を掴んだ。



その時



「三田倉」



声が聞こえた。



「は、はい!」



「歯ブラシ用意したからこっち来て」



「は、はい!」


井上さんに呼ばれ、そして私は服を着て洗面所に向かった。


ジャー


シャコシャコ


そして私と井上さんは歯磨きをした。


「……」


「……」


私はチラッと井上さんの方を見た。


私…


昨日こんなイケメンな人としちゃったんだな…。


やっぱり井上さんかっこいいな…。


黙って見つめていたその時、


「…何?」


井上さんが私に気づいた。


「な、何でもないです…。」


私は慌てて顔を逸らした。


そして井上さんは洗面所を出た。



私はまた歯磨きに戻った。


一緒に寝たベッド


初めて迎える朝


初めて使う歯ブラシ


…同棲ってこんな感じなのかな?


…でも私と井上さんは違う。


昨日のあれは…ただの事故だ。


…一夜の過ち


もう一生、私達が交わる事はないんだ。


キュッ


歯磨きと顔を洗い終わった後、私はリビングに向かった。



リビングに行くと、井上さんが朝食の用意をしていた。


(…いつまでもここにいる訳には行かないよね…)


「着替えと歯ブラシありがとうございました。
…それじゃあ」


帰る支度をしたその時、井上さんがぽかんとしていた。


(え?何?)


「朝メシは?」


「え?」


「…作ったんだけどいらねえの?」



「え?だって…」


(私達付き合ってないのに…)


「私達、付き合ってないのにそうゆう訳には…」


思わず口に出してしまった。


その時、井上さんが口を開いた。



「あのなあ、泊まって行ったんだから朝メシぐらい普通出すだろ?
俺をなんだと思ってんだよ。
ヤリ捨て野郎と思ってる訳?」

「え…」

「言っとくけど俺は、理由がない限り
本当に好きじゃない限り
簡単には抱かない。」

そう言った井上さんの顔は少し赤かった。

「…え?」

「あーもう!とにかく!話は後だ。
せっかく作った朝メシが冷める!
席についてろ!」

「は、はい!」

そして井上さんに言われるがまま、私は席についた。

コト

そして私の目の前には朝食が置かれた。

(わ!美味しそ…)


私は思わず見とれてしまった。

(すごい…慣れてる。)

「食えよ」

そう言って井上さんは私の目をじっと見つめた。

(…本当に良いのかな…)

「いらないなら捨てるけど?」

「い、頂きます!」

そして私は料理を口に運んだ。

「!美味しい!」

「良かった。」

そう言って井上さんは、優しく微笑んだ。

私はその笑顔にドキッとした。

「俺も食べるか」

そう言って井上さんは料理を口に運んだ。


不思議…昨日あんだけ触れ合ったのに

当たる足の指と指が緊張させる。

初めて迎える朝ってこんな感じなんだ…。

そしてしばらくして私達は朝食を食べ終えた。
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