秘密の糸Season1㊦
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{回想}

「梨絵、あのさ…」

雪都が突然、あたしの名前を呼んだ。


その時、あたしの名前を呼んだ雪都の目は真剣だった。


「何?」

その時の雪都の顔は、照れながらも少し嬉しそうな顔をしていた。


「…えっと」

…嫌な予感がした。


「もう!改まって何よ!早く言いなさいよ!」


なんて口には出すけど


…本当はこの時、言って欲しくなった。


だって、


今から何を話すのか、だいたい想像はつくから。


何年も一緒だったもん。


それぐらい分かる。


でも、雪都はあたしの気持ちなんてこれっぽっちも分かってない。


だって、雪都にとってあたしは



幼なじみで、お姉ちゃん的存在だから。


それしか


あたし達の関係はないから。


だから、雪都にあたしの気持ちが届く事は一生ないんだ。

「…俺さ、ずっと言ってなかったけど
三田倉と付き合ってんだ。」

…うん、分かってたよ。


でも


分かっていても、いざ目の前で言われると辛い。


だけど雪都は、あたしの知らない笑顔を初めて見せた。


(…そんな、笑顔見せないでよ…)


あたしの前ではそんな笑顔見せたことないくせに…


その時


「梨絵?おい!」


雪都に呼ばれて気づいた。


「え…?」


「んだよボーッとして」



「あ、ああ…ごめん。」



「大丈夫か?お前。疲れか?」



「るさいなー!突然だからびっくりしただけよ!
ほんっと雪都の癖に生意気」


「うるせーよ、人が折角心配してやったのに」

「余計なお世話です〜」

「は?」

「あははは!」


…今あたし笑えてる?


ちゃんと雪都の前で笑えてる?

「はいはい、とにかくおめでとう。」

「何だよ、俺に彼女出来たのがそんなに気に食わねーのかよ」


本当は嫌だよ…。

雪都の横にはあたしがずっと居たかった。

笑って、バカみたいに騒いで

居心地の良いこの空間でずっと一緒に居たかったよ…。

「…そうかもね。」

「ハア?」

「先に越されたから悔しいのかも」

「何だよそれ」

「お幸せに!あたしは忙しいの!それじゃーね」

そして、逃げるようにあたしはその場から立ち去った。
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