花と蝶
権賢は正嬪の入宮に反対だった。一度、嫁いだ身で、しかも宗室の女人を歓迎するわけがなかった。
欣宗はこう反論した。昔、於里(オリ)という女人がいた。於里は他家の妾だったが、宗室の妾になった。また、唐太祖は王族の妃を侍妾とした。それを反論として述べたが、臣からは好感を含んだ反応は見れなかった。
それに正嬪という徽号ですら歓迎されず、無理やり欣宗が押し通したのだ。
「正」は正妃や王妃に通じ、侍妾に過ぎない彼女にはそぐわないものである。
権賢は同じ発音である、「静(チョン)」にするように注文をつけたが、欣宗はそれを跳ね除けた。
権賢が欣宗に会えたのは一刻後だった。そこには正嬪の姿はなく、入れ替わるように去ったのだと思った。
「主上殿下、大秦から世子冊封の話をしてきました」
「正嬪の子を世子にする」
「恐れながら正嬪媽媽は懐妊も何もしておりません。誠仁大君を世子にすべきです」
「それは大秦の意思か?それとも皇貴妃娘娘の意思か?」
「皇貴妃娘娘は関係ございません。誠仁大君は養子ですが、中殿媽媽の御子です」
欣宗は睨むように権賢を見た。だが、権賢はそれに怯むような男ではない。彼は皇貴妃の弟であり、西院公という特別な地位を持つ。それは東瀛君王ですら、叶わない地位である。
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