蜜月同棲~24時間独占されています~
プロローグ
背が高くて肩幅の広い、その背中を見つめる度に胸が高鳴り、見ているだけでも幸せだった。
臆病で、変わることを知らない幼い恋心。
幼馴染みという立場で居れば、まだしばらくはその背中に駆け寄って腕を絡ませて甘えることができると思っていた。
『克己くん』
いつもそうやって駆け寄って行ったのは、私。
だけど今、目の前でそう彼を呼び向かい合っているのは、私じゃなかった。
……あの人、知ってる。
克己くんとよく一緒に電車に乗ってる人だ。
克己くんと同じ学校の制服の彼女。
『誕生日、おめでとう』
彼女の言葉を聞いて、私は静かに手に持ったショップバッグの柄を握りしめた。
克己くんは、どんな顔をして彼女からのプレゼントを受け取っていたのだろう。
昔のこと過ぎて、もうはっきり覚えていない。
それとも怖くて見られなかったから記憶にないのだろうか。
洒落たアイアンポーチの門を抜けて、克己くんは彼女を中へと迎え入れた。
少し離れた道の角で、気付かれないようふたりを見つめていた私の頬を撫でた風。
ひんやりと感じたのは、季節のせいではなくて頬が濡れていたからかもしれない。
せつなくて、ほろ苦い。
言葉にすることもなく終わった、私の初恋の思い出だった。