蜜月同棲~24時間独占されています~
「全く……ふたりして往来で何やってんだ」
呆れた声でそう言いながら、克己くんはぎりぎりと新田さんの手首を捻る。
新田さんが痛みに顔を歪めながら、「離せ!」と叫ぶと、ぱっと手のひらを広げた。
反動で、よろよろと後ろに下がると、またあの嫌な目で私と克己くんを睨んで言った。
「ほら、やっぱできてんじゃねえか」
「だから! 違うって……」
克己くんまで馬鹿にするその言葉にすぐさま反論しようとしたが。
ぽんっと突然頭に手を置かれて止まってしまった。
「はい、どうどう。感情的になるな。牙剥かない、毛を逆立てない」
まるで猫を宥めるような言い草で、ぽんぽんと優しく頭を叩かれる。
冷静な克己くんの声で宥められ、徐々に頭が冷えてくる。
自分が息を荒くしていたことにも気が付いて、身体の力を抜くと武者震いで膝が震えた。
がくがくして、上手く立てない。
肩に回った克己くんの手に、ぎゅっと力が込められ支えられる。
私は、足と同じように震えている手で彼のスーツにしがみついた。
「……あんた。柚香の元婚約者の、新田さん?」
頭上から、克己くんの声が聞こえる。
新田さんからの返事は聞こえなかったが、克己くんの言葉が続く。
「別に、あんたにどう思われようとこっちはまったくどうでもいいわけなんだけど、ひとつだけ言わせてもらおうかな」
何を言うつもりだろう、とハラハラしながら彼の胸に耳を押し付ける。
もう私には新田さんと相対する気力は残っていなくて、克己くんに任せる他なかった。
そして、それは思いがけない言葉だった。
「礼を言いたかった。柚香をフリーに戻してくれてありがとう」